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【着物色合わせ】使い勝手のいい色を考えよう

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着物や浴衣に限らず、ファッションの色合わせにおいて「使い勝手のいい色」というフレーズを目にすることがあります。
よく聞くのはベージュやネイビーといった、所謂「ベーシックカラー」です。

でも、十人十色のコーディネートの中で全員が「使い勝手がいい」と思える色は、なかなか一つにはならないですよね。
さて、「使い勝手のいい色」とはどんな色なのか?「好き・似合う」「色彩学」をベースに考えてみます。


使い勝手がいいとは

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まず「使い勝手がいい」というのはどんなことでしょうか?
一般的には、便利である・扱いやすい・都合がよい、といった意味で使用されていると思います。

似たような言葉で「使い心地」もありますね。
「使い勝手」は機能や性能部分の使いやすさを意味し、「使い心地」は体感的な良し悪しを表す意味となります。
今回は、配色としての機能・効果について検証しますので「使い勝手」となります。

では「使い勝手がいい色」を選ぶには、どうすればいいでしょうか?
使い勝手がいいということは、自分に「似合う(扱いやすい)」とか「持っている着物や帯と合わせやすい(都合がいい)」ということかなと思います。

「似合う」と「合わせやすい」は比較対象がそれぞれが違うので、それぞれ考えてみましょう。


使い勝手がいい色を考えてみる

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まず「似合う」という観点から考えてみます。
この時に参考になるのが、パーソナルカラーといった自身の色素です。
自分自身が比較対象となるため、実際に診断を受けたり、色布を顔に当てたりして、自分にとって扱いやすい・便利な色の属性を理解してから選ぶことになります。

特に着物は布の面積が大きい衣服ですので、自分に似合う色を大面積(着物)で使うことで、帯や小物といった小面積の部分に好きな色を入れても不調和を感じにくい効果が期待できます。

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「合わせやすい」
という観点で考えると、「似合う」とは少し違います
対象は手持ちの着物や帯、小物等になるので、それらを比較対象として考えます。
そして、「合わせやすい」色を探すためには自分が「どんな配色を好むのか」を分析しなければ進めません。


使い勝手がいい色を「好きな」組み合わせから考えてみる

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まずは、床置き画像やWEB上の画像でもよいので、好みの組み合わせの画像を集めましょう。(最低でも5枚ぐらいは欲しい)
可能なら、集めた画像を平面で並べると、自分はどんな色や配色、色調が好きなのかを改めて確認することができます。

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例えば、上記の画像のコーディネートの場合。
目立ったアイテムに高彩度の色が使われており、補色・対照色相配色や色相差・明度差のある組み合わせが特徴的です。

このような組み合わせを好む方は、

  1. 彩度が高い鮮やかな色
  2. 補色色相配色や対照色相配色
  3. 色の色相差・明度差によるコントラスト感
  4. 賑やかさを感じる多色配色

を好む傾向にあると推測できます。

そのようなコーディネートに適した「使い勝手のいい色」を考える場合、例えば無彩色なら明度差によるコントラスト感を出せる最高明度の白や最低明度の黒、手持ちのアイテムに多い色との補色、あるいは三色以上で調和感が感じられるトライアド・テトラード関係となる色が考えられます。

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こちらは、全体的に高明度で中・低彩度の色が多く、無彩色以外では明度・色相差が少ないコーディネートになります。

こういった組み合わせを好む方にとっての「使い勝手のいい色」は、オフホワイトやチャコールグレーといったはっきりした色調ではない無彩色、有彩色であれば色調はペールトーンやライトグレイッシュトーンの色調で、色相は主に青~赤までの同一から類似の関係になっている色が理想的だと思います。

このように、まず自分の好みのコーディネートはどのような色彩条件で構成されているのかがわかると、使いまわせる便利な色の条件を推測することができます。


ベーシックカラー

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個人の嗜好性とは関係なしに、使い勝手のいい色とされるものがあります。
それがベーシックカラーと呼ばれる色群です。
無彩色の白・灰・黒と、有彩色の茶(焦げ茶・ベージュ含む)や紺(青)の色みで構成されています。


無彩色

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無彩色とは、白・灰・黒といった「色相と色の鮮やかさ(彩度)」を持たない色のことです。
色は三つの属性「色相・明度・彩度」で構成されていますが、無彩色については「色相・彩度」が存在せず、明度の属性しかありません。

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色相・彩度がないので他の色より属性や心理的効果が少なく、他の色と組み合わせても不調和が起きにくいのです(特に明度で軽さを感じる白)
また、上記の属性が少ないために、色の下地である質感・素材感の印象も感じやすい色です。

料理でいうなら、ファーストフードからイタリアン、中華やエスニック料理などに幅広く合わせられるアイスティーや烏龍茶のような存在かもしれません。

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紺(青)と茶

ベーシックカラーとよばれる「白・灰・黒・紺・茶(焦げ茶、ベージュ含む)」は、ファッションにおいて市場の6~7割を占める「定番色」です。
ベーシックカラーはデザインや流行にかかわらず頻繁に使われる色であり、1990年代のトレンドカラー(紺ブレブームのネイビー/フレンチカジュアルのグレーを中心としたモノトーン/ナチュラル人気のベージュ)以降ぐらいから、「売れる」色群として固定化しました。

人は、見慣れたものには違和感を感じづらい傾向があり、ベーシックカラーで構成されたコーディネートは「衣服の色として見慣れた」配色になります。
洋服地の着物、とくにデニム着物などは着物を着たことがない人でも「色、生地として見慣れており扱いやすい」ため、カジュアル嗜好のユーザーや着物を始める初心者向けに売り出されていることも多いですね。(価格帯が洋服に近く、洗濯できるという機能的なメリットもあると思います)

紺(青)や茶・ベージュといった色は、落ち着きや穏やかさのある色であり、単一色としての誘目性も低いため、日常的な衣服として実用的であり「選ばれやすい=売れる」と考えられます。

着物の配色として紺(青)&茶・ベージュが「使い勝手」がいいかは一概に難しい(着物を日常かつ実用的な衣服として着る方が限られている)ですが、上記の有彩色は興奮感を感じににく誘目性が低い属性の色であるので、他の色や属性、質感や素材感を引き立てるのが得意な色ではあると思います。


使い勝手がいい色を考えると、方向性を確認できる

使い勝手がいい色はどんな色か?を改めて見直してみると、自分のコーディネートやスタイリングの方向性を再認識することができ、より色を楽しむ組み合わせが見えてきます。

最後に、「使い勝手がいいから買おう」という行動は、着物においては初心者やライトユーザーではなくなっている人達の嗜好なので、着物を始めたばかりの方は、好みの方向性を自覚するまで意識しなくてもいいと思います。