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【2021-春M3】Secret Messenger/Sillenite アルバムデザイン

どうも、沼です。

今回の春M3では、Secret Messengerさんの新譜「Sillenite」のジャケットデザインを担当しました。
Secret Messengerさんとは2013年からの縁なのですが、数えたらなんと10年超えてますね。
美女コンポーザーだと思って飲み会に誘ったら、現れたのは無駄に背の高い青年がいるんだけど、というTwitterのアイコン詐欺の出会いからもう10年か…。

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(当時のDM)

これからも作品制作を頑張っていただいて、あと20年ぐらいは引き続きご依頼いただきたいものです。

デザインとしてのテーマカラー

Secret Messengerさんは、大抵依頼をいただいたときにはジャケット用イラストがあるので、作品のテーマや世界観と合わせてアルバムのテーマカラーを選定します。

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歴代CDを並べた場合、テーマカラーが重ならないように色を選定しています。
長く任せていただいているので、こういった「作品を並べたとき」まで意識してデザインを構築できるのは嬉しいですね。

今作は、明度が高く、彩度がちょっとだけ低めの黄色を選びました。
ジャケット用イラストのキャラクターの髪色と、おおよそ補色関係かつ同一トーンであり、目を引く部分を色彩的に対比させ、鈍い色調を持つ退廃的な背景群の色合いとの差異が大きくなる色です。

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対比する配色を使うことで、よりキャラクターや背景物の存在感を強調し、印象深くなるように狙ってみました。

フォント選び

今回のフォント選定にあたり、読みやすさも重視しながら、世界観のコンセプトに近いフォントを探すのに苦労しました。
作品のメインテーマの「非日常」「異常」「脅威」というニュアンスを、文字の部分でも表現したくて色々と検討しました。

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その中でも、曲タイトルに使用したBigelow Rulesというフォントは、非日常感を想起させやすく好きなフォントの一つでもあります。

以前、LapiLapi/石原けいこさんと共同で作った「スカボローフェア アレンジコンピレーション」のロゴタイトルでも使ったフォントなのですが、小文字のベースラインがかなり上にあり、普通に打ち込むだけでもリズミカルな配置になります。

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クラシカルな活字の雰囲気もあり、リズミカルでクラシカルという珍しい雰囲気のフォントで、「非日常」感を強く演出することができます。(ハロウィンとかクリスマス向きですね)

スカボローフェアでは、「異界」さを演出するためにこのフォントをタイトルに選んだのですが、今回はタイトルに使うとファンタジーな印象が強くなってしまうので、曲タイトルのほうで使うことにしました。

歌詞の書体は、貂明朝を使用しました。
癖のある嫋やかなニュアンスと、シンプルで読みやすいバランスで、一癖ある雰囲気が人気の書体です。

blog.typekit.com

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女性的な柔らかさを感じる表情豊かな書体なので、Secret Messengerさんの多彩なで情緒的な女性ボーカルの声調とピッタリだなと思っています。

歌詞の可読性による”聴きやすさ”

Secret Messengerさんは歌物に対して並々ならぬ熱量があり、そんな曲を聴きながら見るであろう歌詞については、可読時にストレスがないよう、歌詞の配置や行間、カーニングや背景との明度差、コントラストなど気をつかっています。

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ジャケットを見る時はおおよそその音楽を聴く時だと思っているのですが、音楽を聴く時は視覚的な負荷が少なければ少ないほど、音楽への没入感、いわゆる「聴く」という体験の解像度が高くなる、と思っています。

歌詞が小さくて見にくかったり、明度差や色相差があいまいで読みづらいと、見ることへの処理負荷が高くなり、聴くことに没頭できない=「聴く」という体験の解像度が下がることになります。

デザインが音楽の体験価値を下げるという本末転倒なことがないよう、「読む」という処理が必要な歌詞のデザインは、入稿直前まで細かく調整します。

CDに求められるもの

CDの依頼をいただく度に、サブスクリションでの音楽配信が主流となっている現在、CDを購入するユーザーに対して、デザインができることってなんだろうなぁと考えています。

CDを見た時のジャケットのビジュアルや、イラストから感じるインパクト。
リッピングを剥がして、ケースを開くときの高揚感。
盤面を手に取ったときのワクワク感といった、実物ならではのアナログな体験の喜び。

そういったビジュアル的な部分で音楽を表現しながら、歌詞などの各種情報を見るときに、文字が読みづらい、情報が分かりづらいといった「ユーザー体験の解像度を下げる」マイナス部分やノイズを削減し、音楽そのものを心地よく聴けるように視覚的表現部分をデザインしていく。

音楽を視覚的に表現する「盛って」いくプラスの工程と、音楽体験を邪魔しないように、可読という処理に対して負荷が高くなるようなマイナスを「削る」工程。

そういった、音楽配信だけでは手にできない「体験価値」を高める/音楽を体験する解像度を上げることが、今後のCDデザインに求められることなんじゃないかな、と思いました。

scmn0019.tumblr.com