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【着物色合わせ】使い勝手のいい色を考えよう

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着物や浴衣に限らず、ファッションの色合わせにおいて「使い勝手のいい色」というフレーズを目にすることがあります。
よく聞くのはベージュやネイビーといった、所謂「ベーシックカラー」です。

でも、十人十色のコーディネートの中で全員が「使い勝手がいい」と思える色は、なかなか一つにはならないですよね。
さて、「使い勝手のいい色」とはどんな色なのか?「好き・似合う」「色彩学」をベースに考えてみます。


使い勝手がいいとは

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まず「使い勝手がいい」というのはどんなことでしょうか?
一般的には、便利である・扱いやすい・都合がよい、といった意味で使用されていると思います。

似たような言葉で「使い心地」もありますね。
「使い勝手」は機能や性能部分の使いやすさを意味し、「使い心地」は体感的な良し悪しを表す意味となります。
今回は、配色としての機能・効果について検証しますので「使い勝手」となります。

では「使い勝手がいい色」を選ぶには、どうすればいいでしょうか?
使い勝手がいいということは、自分に「似合う(扱いやすい)」とか「持っている着物や帯と合わせやすい(都合がいい)」ということかなと思います。

「似合う」と「合わせやすい」は比較対象がそれぞれが違うので、それぞれ考えてみましょう。


使い勝手がいい色を考えてみる

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まず「似合う」という観点から考えてみます。
この時に参考になるのが、パーソナルカラーといった自身の色素です。
自分自身が比較対象となるため、実際に診断を受けたり、色布を顔に当てたりして、自分にとって扱いやすい・便利な色の属性を理解してから選ぶことになります。

特に着物は布の面積が大きい衣服ですので、自分に似合う色を大面積(着物)で使うことで、帯や小物といった小面積の部分に好きな色を入れても不調和を感じにくい効果が期待できます。

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「合わせやすい」
という観点で考えると、「似合う」とは少し違います
対象は手持ちの着物や帯、小物等になるので、それらを比較対象として考えます。
そして、「合わせやすい」色を探すためには自分が「どんな配色を好むのか」を分析しなければ進めません。


使い勝手がいい色を「好きな」組み合わせから考えてみる

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まずは、床置き画像やWEB上の画像でもよいので、好みの組み合わせの画像を集めましょう。(最低でも5枚ぐらいは欲しい)
可能なら、集めた画像を平面で並べると、自分はどんな色や配色、色調が好きなのかを改めて確認することができます。

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例えば、上記の画像のコーディネートの場合。
目立ったアイテムに高彩度の色が使われており、補色・対照色相配色や色相差・明度差のある組み合わせが特徴的です。

このような組み合わせを好む方は、

  1. 彩度が高い鮮やかな色
  2. 補色色相配色や対照色相配色
  3. 色の色相差・明度差によるコントラスト感
  4. 賑やかさを感じる多色配色

を好む傾向にあると推測できます。

そのようなコーディネートに適した「使い勝手のいい色」を考える場合、例えば無彩色なら明度差によるコントラスト感を出せる最高明度の白や最低明度の黒、手持ちのアイテムに多い色との補色、あるいは三色以上で調和感が感じられるトライアド・テトラード関係となる色が考えられます。

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こちらは、全体的に高明度で中・低彩度の色が多く、無彩色以外では明度・色相差が少ないコーディネートになります。

こういった組み合わせを好む方にとっての「使い勝手のいい色」は、オフホワイトやチャコールグレーといったはっきりした色調ではない無彩色、有彩色であれば色調はペールトーンやライトグレイッシュトーンの色調で、色相は主に青~赤までの同一から類似の関係になっている色が理想的だと思います。

このように、まず自分の好みのコーディネートはどのような色彩条件で構成されているのかがわかると、使いまわせる便利な色の条件を推測することができます。


ベーシックカラー

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個人の嗜好性とは関係なしに、使い勝手のいい色とされるものがあります。
それがベーシックカラーと呼ばれる色群です。
無彩色の白・灰・黒と、有彩色の茶(焦げ茶・ベージュ含む)や紺(青)の色みで構成されています。


無彩色

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無彩色とは、白・灰・黒といった「色相と色の鮮やかさ(彩度)」を持たない色のことです。
色は三つの属性「色相・明度・彩度」で構成されていますが、無彩色については「色相・彩度」が存在せず、明度の属性しかありません。

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色相・彩度がないので他の色より属性や心理的効果が少なく、他の色と組み合わせても不調和が起きにくいのです(特に明度で軽さを感じる白)
また、上記の属性が少ないために、色の下地である質感・素材感の印象も感じやすい色です。

料理でいうなら、ファーストフードからイタリアン、中華やエスニック料理などに幅広く合わせられるアイスティーや烏龍茶のような存在かもしれません。

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紺(青)と茶

ベーシックカラーとよばれる「白・灰・黒・紺・茶(焦げ茶、ベージュ含む)」は、ファッションにおいて市場の6~7割を占める「定番色」です。
ベーシックカラーはデザインや流行にかかわらず頻繁に使われる色であり、1990年代のトレンドカラー(紺ブレブームのネイビー/フレンチカジュアルのグレーを中心としたモノトーン/ナチュラル人気のベージュ)以降ぐらいから、「売れる」色群として固定化しました。

人は、見慣れたものには違和感を感じづらい傾向があり、ベーシックカラーで構成されたコーディネートは「衣服の色として見慣れた」配色になります。
洋服地の着物、とくにデニム着物などは着物を着たことがない人でも「色、生地として見慣れており扱いやすい」ため、カジュアル嗜好のユーザーや着物を始める初心者向けに売り出されていることも多いですね。(価格帯が洋服に近く、洗濯できるという機能的なメリットもあると思います)

紺(青)や茶・ベージュといった色は、落ち着きや穏やかさのある色であり、単一色としての誘目性も低いため、日常的な衣服として実用的であり「選ばれやすい=売れる」と考えられます。

着物の配色として紺(青)&茶・ベージュが「使い勝手」がいいかは一概に難しい(着物を日常かつ実用的な衣服として着る方が限られている)ですが、上記の有彩色は興奮感を感じににく誘目性が低い属性の色であるので、他の色や属性、質感や素材感を引き立てるのが得意な色ではあると思います。


使い勝手がいい色を考えると、方向性を確認できる

使い勝手がいい色はどんな色か?を改めて見直してみると、自分のコーディネートやスタイリングの方向性を再認識することができ、より色を楽しむ組み合わせが見えてきます。

最後に、「使い勝手がいいから買おう」という行動は、着物においては初心者やライトユーザーではなくなっている人達の嗜好なので、着物を始めたばかりの方は、好みの方向性を自覚するまで意識しなくてもいいと思います。

 

【着物色合わせ】補色と同一とは

補色にするといい、とか、着物や浴衣といった長着の色から取るとか、毎年この手の色合わせのおススメをよく見かけます。

でも「なんで補色がいいのか」「どうして色を統一するといいのか」まできちんと説明している人は少なく、またトーンや面積比についても言及されてないので、この前のBlogと同じように「色み」しか考えられておらず、せっかくなのでもう少し踏み込んだ説明があるといいよね、と思ったのでまとめました。
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今回は、補色が何故良いとされるのか、トーン配色や面積比も考えながら「色って、コーディネートと一緒に考えると面白い!」というのをやってみたいと思います。
なお、使用する配色体系はPCCS(日本色研配色体系)となります。 
日本色研事業株式会社 HomePage

 補色とは?

正式名称は補色色相配色といい、色相環を基準として、色相が反対の色を組み合わせた配色のことをいいます。
条件は色相差12:角度180°、および色相差11:角度165°となります。

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また、彩度が高いほど色の対比が際立つ組み合わせであり、高彩度同士の色は「派手」「目立つ」「鮮やかな」といった印象を想起させます。

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補色の組み合わせは、正反対の色相を対比させてインパクトのある印象を生み出す配色技法となります。(低彩度の補色配色は除く)
その効果により、補色の組み合わせの着物や帯などは、お互いの存在感が際立ち大胆な印象を与えることができます。

しかし、補色色相配色は「色の差」が中心の印象になるため、「素材感」や「質感」といった着物や浴衣、帯の素材自体の印象が薄くなりやすいです。
また、補色の組み合わせは色の対比によって誘目性が高くなり、「派手」「目立つ」といった印象になりやすいです。
※彩度や明度を純色から遠ざけることで、この効果は軽減します

補色色相配色はあくまで技法であり、コーディネートでどのような印象を与えたいのか、どのアイテムを主役にするのか等の目的を達成するための手段の一つです。

「補色だからよい」と理論ありきで、どんな風になりたいのか目的を定めずに使うのは、コーディネートで表現できる印象の幅を狭めるのでおススメできません。

 やってみよう、補色と同一コーデ

それでは、実際に考えながらやってみよう楽しい色彩調和。
この浴衣を例にしてやってみましょう。

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よくある藍染めの綿浴衣です。
この浴衣で、まずは補色コーディネートをしてみます。
(柄は白(無彩色)なので補色はありません。今回は柄については除外します)

 補色&トーン対照

地の色は、低明度の紫みの青、PCCSでいうならばdkトーンの19:pBあたりでしょう。
トーン(色調)というのは、同じ印象やイメージを持つ明度・彩度領域をまとめた概念のことです。

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補色に相当するのは、7:rY(赤みの黄)、および6:yO(黄みのだいだい) or 8:Y(黄)となります。
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ちょうど7:rYに近いbトーンの黄色の半幅帯がありましたので配置してみました。

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補色色相配色の効果により、浴衣と帯がはっきりと見える印象になります。
さらにこの浴衣と帯は、dk-19:pb(暗清色)/b-7r:Y(明清色)という組み合わせですので、明度が対照的なトーン対照にもなり、トーン差を利用した明快な印象をとなります。

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補色色相配色で色の印象が強くなって、トーン対照の効果で溌剌とした、明快な印象もプラスされました。
補色による大胆な色相差×トーン対照による明快な色調差によって、賑やかで楽しそうな雰囲気になりました。
夏祭りや花火大会を連想させる組み合わせかなと思います。

 同一&類似トーン


次は補色の反対、つまり同一色相配色です。
説明はいらない気がしますが「同じ色、同一色相による配色」となります。

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同じような色には、共通的な印象があり、色相を統一するとその印象が強まります。
紫みの青である19:pBの色には、「落ち着いた」とか「大人っぽい」などの印象があります。
dkgトーンの19:pBに近い帯がありましたので、浴衣に配置してみました。

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同一色相配色の効果で、共通的な印象「落ち着いた」「大人っぽい」という雰囲気が強調されました。

dkとdkgはトーン区分では隣り合う位置であり、トーン配色として類似トーン配色となります。
類似トーン配色は、それぞれのトーンに明度・彩度の共通性があるので、そのトーンがもつ共通したイメージをより強調します。

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どちらのトーンも大人っぽいシックな雰囲気があり、その印象が色相と相まってさらに強調されました。

また、同一色相配色や同一トーン、類似トーンのコーディネートの特徴として、「素材感」や「質感」といった下地の要素が見えやすくなるということがあります。
色数及び色調の差をなくす=色の情報量を抑えると、色がある地の素材や質感を把握しやすくなります。

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見た時の情報の入る順番は、色→配色→構成→素材となるため、一番最後の「素材」を感じさせたい場合は、

  • 同一または類似の配色を使う
  • 配色(柄)を少なくする
  • 配色(柄)を均一にする
  • 配色(柄)の面積を減らす


などをすると、より効果的となります。

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同一色相配色および類似色相配色は色数が少ないので、19:pBの印象である大人っぽさ、落ち着きといった色の印象の他に、綿生地の密度や柔らかさ、帯生地の節のある素材感など見えやすく、色数や配色(柄)が少ないことで質感が感じられやすくなります。

(質感、素材感については多色配色や複雑な柄でも見えないわけでなく、この見えやすさ(伝わりやすさと言い換えても可)は、素材に対する知識や見慣れの経験によって幅があります)

 色の面積による効果

ここまでが、「色」「トーン」を利用した配色でした。
さらに配色で重要な要素「面積」も含めて考えてみましょう。

色は、面積が変わると見え方や印象が変化します。

例えば、同じ色でも面積が大きくなるほど明るく鮮やかに見えるようになります。
色彩学では、これを色の面積効果と呼びます。

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他にも、特定の条件の組み合わせによって、色はお互いに同化したり対比したり、彩度が高くなったり低くなったように見えることがあります。
このように、色は配置された面積によっても印象が変化します。

先ほどのトーン対照/補色構成で面積を見てみましょう。

面積の比較としては、こんな感じになっています。

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比率としては、19:pBの面積が80%、7:rYが20%ぐらいです。
この状態に、新しい要素である三部紐を入れてみます。

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最も面積比の大きいdk-19:pBに近い色の三分紐を配置しました。
dk-19:pBの色と近いため、全体的に統一感のある構成になりましたが、dk-19:pBの色が持つ「暗さ」や「色としての重さ」も強調しています。

色の暗さ&重さの印象が、黄色の帯を引き締める効果がありますので、お腹が気になる、帯部分の印象を引き締めたい場合に効果的な組み合わせです。

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次は、柄と同じ白の三分紐を配置しました。
帯の中心に向かって明度が高くなるグラデーションができて、帯留めの位置に注目が集まりそうな組み合わせです。

白のすっきりとした印象もプラスされ、最初のdk-19:pBに近い三分紐の組み合わせより軽い印象を感じます。

明度のが高い組み合わせには膨張感が出ることもありますが、この組み合わせだと明度の低い(収縮感のある)dk-19:pBの面積が大きいので、色による膨張感は少ないと思います。

次は、色の面積効果を最も感じる同一&類似トーンで変化を見てみましょう。

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さきほどの補色&対照トーンでも使用した、同一色かつ類似トーンのdk-19:pBに近い色の三部紐を入れてみました。

全体的に落ち着いた雰囲気ですが、dk-19:pBの色合いが強すぎて重たい印象があります。(浴衣がしっかりした綿生地であり、帯や紐も同じく密度のある生地の為、質感としてもどっしりとした印象を受ける)

同一&類似色でのコーディネートは質感がポイントですので、それにアクセントを加えたい場合は小面積で「色や質感の差」を出すのがおすすめです。

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浴衣や帯と質感が違う、透明感のある硝子の帯留を加えてみました。
質感の差がアクセントになって、一気に帯留が主役のコーディネートになります。
素材、質感の差も、補色色相配色に似た「差が際立つ」効果が出やすい組み合わせです。

同一&類似コーデで統一感や素材感を出したいけど「抜け感」や「アクセント」も欲しい…そんなときにおススメなのが、全体の印象を損なうことなくプラスで印象を与えられる三分紐二分紐、帯留です。

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今度は、補色関係である黄色8:Yに近いpトーンの二分紐を配置してみました。
落ち着いた雰囲気はそのままで、淡く明度の高いp-8:Yによりすっきりとした印象がプラスされ、重たい印象が軽減しました。

補色色相配色を使うときは、面積比にメリハリを持たせると効果的です。
さらに明度差をつけると、その部分の印象を際立たせて主役の雰囲気を出すことができます。

 まとめ

 

  • 補色色相配色を使うと、インパクトがあり大胆な印象になる
  • 同一色相配色を使うと、統一感が出て色の印象が強くなる
  • 補色色相配色は色の差による際立つ印象が中心であり、同一色相配色は色の情報量が少ないために素材感や質感を感じやすい
  • 色相だけではなく、トーン(色調)も意識するとうまくいく
  • 面積にメリハリをつけるとうまくいく
  • 二分紐や三分紐、帯留めは全体の印象を変えずにプラスで印象を追加できる


「理論は正しい」=「好き」ではない

とはいえ、色彩は一人一人の心理的な感覚であり、理論を正しくなぞっても「必ず好きになる正解」はないのです。

今説明した理論は、基本的に西洋で生まれた色彩理論であり、中国や日本の伝統的な配色理論とは違います。
これら色彩調和の理論は、絵を描くうえでのデッサン力みたいなもので「できないからといって描けないわけではない」であり、性的嗜好は理論的ではないものを好むこともたくさんあります。

個人的には「とりあえず補色」とか「色彩調和しないといけない」と考えるより、「この着物と帯の組み合わが好きなんだけど、小物はどういう色がいいかな?」とか「〇〇な雰囲気にしたいんだけど、この浴衣にどんな色を加えたらそれっぽくなるかな?」という風に、少し悩んだり迷ったときに「色の理論で考えてみようかな」ぐらいに考えると、感性から連想される組み合わせ以外の配色が見えて、コーディネートを考えるのが楽しくなります。

今回はわかりやすいように、柄に色味のない浴衣を用いて実践してみましたが、最近の浴衣は鮮やかなトーンに3~6色ぐらいの配色が多いので、実際はもっと複雑かと思います。

補色と同一以外にも様々な色彩調和の方法がありますので、知識で色合わせが楽しくなるといいなと思います。

 

【2021-春M3】Secret Messenger/Sillenite アルバムデザイン

どうも、沼です。

今回の春M3では、Secret Messengerさんの新譜「Sillenite」のジャケットデザインを担当しました。
Secret Messengerさんとは2013年からの縁なのですが、数えたらなんと10年超えてますね。
美女コンポーザーだと思って飲み会に誘ったら、現れたのは無駄に背の高い青年がいるんだけど、というTwitterのアイコン詐欺の出会いからもう10年か…。

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(当時のDM)

これからも作品制作を頑張っていただいて、あと20年ぐらいは引き続きご依頼いただきたいものです。

デザインとしてのテーマカラー

Secret Messengerさんは、大抵依頼をいただいたときにはジャケット用イラストがあるので、作品のテーマや世界観と合わせてアルバムのテーマカラーを選定します。

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歴代CDを並べた場合、テーマカラーが重ならないように色を選定しています。
長く任せていただいているので、こういった「作品を並べたとき」まで意識してデザインを構築できるのは嬉しいですね。

今作は、明度が高く、彩度がちょっとだけ低めの黄色を選びました。
ジャケット用イラストのキャラクターの髪色と、おおよそ補色関係かつ同一トーンであり、目を引く部分を色彩的に対比させ、鈍い色調を持つ退廃的な背景群の色合いとの差異が大きくなる色です。

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対比する配色を使うことで、よりキャラクターや背景物の存在感を強調し、印象深くなるように狙ってみました。

フォント選び

今回のフォント選定にあたり、読みやすさも重視しながら、世界観のコンセプトに近いフォントを探すのに苦労しました。
作品のメインテーマの「非日常」「異常」「脅威」というニュアンスを、文字の部分でも表現したくて色々と検討しました。

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その中でも、曲タイトルに使用したBigelow Rulesというフォントは、非日常感を想起させやすく好きなフォントの一つでもあります。

以前、LapiLapi/石原けいこさんと共同で作った「スカボローフェア アレンジコンピレーション」のロゴタイトルでも使ったフォントなのですが、小文字のベースラインがかなり上にあり、普通に打ち込むだけでもリズミカルな配置になります。

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クラシカルな活字の雰囲気もあり、リズミカルでクラシカルという珍しい雰囲気のフォントで、「非日常」感を強く演出することができます。(ハロウィンとかクリスマス向きですね)

スカボローフェアでは、「異界」さを演出するためにこのフォントをタイトルに選んだのですが、今回はタイトルに使うとファンタジーな印象が強くなってしまうので、曲タイトルのほうで使うことにしました。

歌詞の書体は、貂明朝を使用しました。
癖のある嫋やかなニュアンスと、シンプルで読みやすいバランスで、一癖ある雰囲気が人気の書体です。

blog.typekit.com

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女性的な柔らかさを感じる表情豊かな書体なので、Secret Messengerさんの多彩なで情緒的な女性ボーカルの声調とピッタリだなと思っています。

歌詞の可読性による”聴きやすさ”

Secret Messengerさんは歌物に対して並々ならぬ熱量があり、そんな曲を聴きながら見るであろう歌詞については、可読時にストレスがないよう、歌詞の配置や行間、カーニングや背景との明度差、コントラストなど気をつかっています。

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ジャケットを見る時はおおよそその音楽を聴く時だと思っているのですが、音楽を聴く時は視覚的な負荷が少なければ少ないほど、音楽への没入感、いわゆる「聴く」という体験の解像度が高くなる、と思っています。

歌詞が小さくて見にくかったり、明度差や色相差があいまいで読みづらいと、見ることへの処理負荷が高くなり、聴くことに没頭できない=「聴く」という体験の解像度が下がることになります。

デザインが音楽の体験価値を下げるという本末転倒なことがないよう、「読む」という処理が必要な歌詞のデザインは、入稿直前まで細かく調整します。

CDに求められるもの

CDの依頼をいただく度に、サブスクリションでの音楽配信が主流となっている現在、CDを購入するユーザーに対して、デザインができることってなんだろうなぁと考えています。

CDを見た時のジャケットのビジュアルや、イラストから感じるインパクト。
リッピングを剥がして、ケースを開くときの高揚感。
盤面を手に取ったときのワクワク感といった、実物ならではのアナログな体験の喜び。

そういったビジュアル的な部分で音楽を表現しながら、歌詞などの各種情報を見るときに、文字が読みづらい、情報が分かりづらいといった「ユーザー体験の解像度を下げる」マイナス部分やノイズを削減し、音楽そのものを心地よく聴けるように視覚的表現部分をデザインしていく。

音楽を視覚的に表現する「盛って」いくプラスの工程と、音楽体験を邪魔しないように、可読という処理に対して負荷が高くなるようなマイナスを「削る」工程。

そういった、音楽配信だけでは手にできない「体験価値」を高める/音楽を体験する解像度を上げることが、今後のCDデザインに求められることなんじゃないかな、と思いました。

scmn0019.tumblr.com

似た色探しは終わりにしよう

最近、

「似た」色 =「似合う」色 = パーソナルカラー

という感じのパーソナルカラー提案のコンテンツが多く、パーソナルカラーそのものを簡略化しすぎているんじゃないかな、と個人的に思っています。

その人がもつ色素に似た色が似合う色であることもありますが、似た色=似合う色、という提案方法で導き出された色が、その人のパーソナルカラーであるという判断や手法は不誠実であると思っています。

 

 
 

「イエベ」と「ブルべ」

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パーソナルカラーといえば、イエベ、ブルべという単語をよく見るのではないでしょうか?

この単語は、イエローベースブルーベースの略であり、色において黄みのある色青みのある色という意味となります。

このイエローベースとブルーベースという色の分類については、1928年にロバート・ドアが提案した「自然界の対象物には青のアンダートーン(キィー1)、黄のアンダートーン(キィー2)があり、同じグループ内の色は調和する」という配色法が元になっています。

さらにゲリー・ピンクニーが、季節分類型パーソナルカラーの提案者であるスザンヌ・ケイギルの「Four Season」の手法に、それらアンダートーンの考え方を取り入れて、ファッションやメイクアップの分野に広げました。
 

色の属性としての「イエベ」と「ブルべ」

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イエベ、ブルべの由来がわかったところで、今度は色の属性の話になります。

色というものは、3つの要素で構築されています。

赤や青といった、色みの性質である「色相」
明るい、暗い、といった明るさの性質である「明度」
色の鮮やかさを表す性質である「彩度」

これら3つの要素によって、色というものを私達は感じることができます。

イエローベースブルーベースは、色みの性質である「色相」の要素にあたります。
つまり、色が持つ三属性の内の一つとなります。

3つの要素で成り立つ色、そのうち、たったひとつの要素「色相」が持つ「イエベ」「ブルべ」だけで、自身の色としての特徴を判断するのは、正確性に欠けると思いませんか?


黄か青か、二極化するパーソナルカラー戦略

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このように、「イエベ」「ブルべ」は、複数の属性からなる色の一要素であるにも関わらず、その要素がパーソナルカラーの全てであるかのように流行しています。

パーソナルカラーとは、さきほどあげた「色の三属性」に、明度と彩度を組み合わせた清濁orクリア&マットorブライト&ミューテッド(いくつか分類法の違いによって名称は異なることが多い)といった色調(トーン)の要素を取り入れ、その人に調和する色の属性をふまえ、似合う色や演出する色、調整する色などを診断・提案するものです。

本来、複数の要素から導きだされるものを、たった一つの属性からなる要素だけをもって提案することは、正確性や客観性に欠ける情報を与えていることになります。

つまり「イエベ」「ブルべ」だけでは、パーソナルカラーは正確に判断できないということです。(イエベブルべだけで判断できない例として、オークル肌(黄み系統の肌色)のブルーベース・Summerタイプの方とか結構いますね)

さらに、「イエベ」「ブルべ」提案において特に多い「肌の色みと同じベースを選びましょう」という診断方法にも問題があると思います。

肌の色みは、顔の印象を中心としたパーソナルカラーにおいて重要な要素の一つです。
ですが、顔は肌の色だけではなく、皮膚の質感厚みによる血色の有無といったたくさんの色彩要素を内包しています。
それぞれの色や質感、それらを総合した印象によってパーソナルカラーというものが導き出されるため、肌の色みの要素だけで判断することは合理的ではありません。

さきほどの「イエベ」「ブルべ」のように、昨今のパーソナルカラー戦略をしているコンテンツは、色彩の知識がない方にもわかりやすく、理解しやすいように知識を絞って極端な結果になるよう提案されたものが多く見受けられます。

それら端折った結果へ誘導されたものを、パーソナルカラーと安易に持ち上げていくことは、正確性の薄い提案を乱発しパーソナルカラーの信頼を落とす不誠実な結果に繋がるのではないかな、と感じています。

 

パーソナルカラーにおいて、「似た」色=「似合う」色ではない

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肌と同じベースの色が「似合う」か「似合わない」かについては、個々の表現感情であるので、人によって評価がバラバラになります。

そんな中で、より多くの人から見た客観的な印象、「その色を当てると、その人の印象がどう変わるのか」として、万人が共通に感じる固有感情を含めて表現感情がプラスに働いているのか、マイナスに働いているのかを、様々な視野や視点から分析・判断する対人測色技術がパーソナルカラーです。

同じような色みを持つ色が似合う、つまり色相の要素が調和するかどうかは、肌や色の要素だけではなく、顔全体の総合的な色彩構成を把握して判断しなければならないのです。

 

似た色探しは終わりにしよう

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「似た」色は、必ずしも「似合う」色ではない。

似た色が「結果的に」似合う色であることもあるが、「似た色=似合う色」という判断の仕方は、その人のパーソナルカラーを判別する方法ではありません。

特定の不確実な要素だけに縛られずに、自分の特徴的な色素を客観的に把握し、そのうえでなりたいイメージや魅力を引き出せるような色を選べるようになるといいな、と思います。

 

最後に

ちなみに「似合う」色だけが、選べる色の全てではないと私は思っていますが、その話は別軸なので今度にします。

 

パーソナルカラー資格を三つ揃えてみたよ

どうも、沼です。

 三月に受けたNPOパーソナルカラー協会・色彩技能パーソナルカラー検定 ®のモジュール3に合格しました。

 これにより、

  • 色彩活用パーソナルカラー
  • 色彩技能パーソナルカラー
  • パーソナルカラリスト

上記パーソナルカラーの検定において、全て最上位資格を取得することができました。
 

 

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なんで三つも揃えたのか

 ぶっちゃけ、同じような資格は三つも必要ないです。(本末転倒)

私の場合は、最初にパーソナルカラー資格を取得するために学んでいる最中、他の協会だと季節で分類される色が違ったり、色の属性で判断するポイントに違いがあることを知って「別の協会はどういう基準や分類で診断をしてるんだろう?」と興味が湧き、知識や技術に対して、多角的な視野を持とうと勉強を続けた結果、同じような資格が三つ揃ってしまったという経緯になります。

それぞれの協会によって、診断のポイントや季節の分類に差異がありますので、複数の体系への知識があると、パーソナルカラーへの見識が深まると思います。

また、パーソナルカラー資格を最上位で揃えた人は中々いないんじゃないかと思い、個人的な所感をまとめてみました。

   

それぞれの資格と、その特徴について

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取得した資格の正式名は、

一般社団法人日本カラーコーディネーター協会
色彩活用パーソナルカラー検定

NPO日本パーソナルカラー協会
色彩技能パーソナルカラー検定

一般社団法人日本カラリスト協会
パーソナルカラリスト検定

となります。

受験資格は特になく、上位級を受験する場合は、下位級を取得していることが条件になっています。級のランクはどれも三つであり、最上位以外については併願受験することが可能となっています。

また、どの資格も最上位取得後に、協会に所属して活動するアシスタントや所属講師といったさらに上位の資格が準備されています。それらを受講・受験する場合、おおよそ合計30~50万前後の費用と、25~50時間前後の時間が必要となります。

(私の場合は、協会に所属するのが目的ではなかったため、それらの資格は取得していません) 

色彩活用パーソナルカラー検定

一般社団法人日本カラーコーディネーター協会 パーソナルカラー検定

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 三つの検定中、最も基礎的な知識を獲得できる検定だったと思います。
基礎だから簡単、というわけではなく、基本的なパーソナルカラーの知識と技術、診断時のポイントなどを理論化しています。

また特徴として、カラーを提案する際のコンサルティング技術についても重要視しているところが挙げられます。

パーソナルカラーの知識や技術だけではなく、相手に理解しやすく具体的に伝えられるような提案をするためのコンサルティングスキルも学ぶことができます。

 

色彩技能パーソナルカラー検定

NPO日本パーソナルカラー協会|色彩の検定・色の資格をとるなら色彩技能パーソナルカラー検定®

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一級、二級といった呼称ではなく、モジュールという比較的珍しい呼称を使用しているパーソナルカラーの検定です。

最後のモジュール3では、ドレーピングによる視感測色の試験がある(他の検定では最上位取得以降で要求される内容)という検定です。

モジュール2までは、色彩検定でいう二級程度の知識があれば難しくないと思います。
最後のモジュール3で行われるドレープを使った視感測色での試験は、目で色の属性を正しく判別できるかを問われるので、筆記の能力だけでは合格できない試験となっています。
 

パーソナルカラリスト検定

一般社団法人日本カラリスト協会

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三つの資格の中で、筆記試験の難易度が最も高い検定だと思います。
特徴としては、独自の配色体系(CUS®)を用いているところです。

特徴として、明度の変化によるアンダートーンの変化などを、CUS®9色調図式色相環として分類しているところです。

また、最後の一級試験の難易度は、色彩検定一級二次に匹敵、あるいはそれよりも難しいのでは?というぐらい高難易度の問題が並んでいました。
このパーソナルカラリスト一級試験は、設問から明確な悪意を感じました(笑)

 

パーソナルカラーは色々な体系や分類があり、正解はない

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私が勉強したパーソナルカラーの検定や体系以外にも、16分類や24分類、和の色に特化したものなど、様々な体系や理論があります。

基本的にパーソナルカラーというものは、万人がおおよそ共通して感じる固有感情(色の力量性や活動性)ではなく、環境や社会風土、個々によって好悪の評価が変わる表現感情を主体とする視感測色の技術のため、診断者によって結果が違うことが発生することもあります。

上記の理由から、パーソナルカラーは100人中100人が必ず同じ印象を思うような「正解」がない世界です。
だからこそ、診断者は多角的な判断基準を踏まえ、色を正確に判断できる視感測色の技術や、固有感情と表現感情の差異、色彩学配色理論の知識、そして色による問題解決や自己演出の力になれるような提案やコンサルティングが必要になります。

 

複数の理論や判断基準を学ぶことで、一つの基準ではなく、多角的な基準でパーソナルカラーという対人の配色理論を考えられるようになったというのは、良い学びでありました。

 

 

まとめ

まずはパーソナルカラーの基礎として、目標である三種類のパーソナルカラー資格を揃えることができました。
診断の経験も含めて、引き続き知識や技術力を上げていきたいと思います。