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【着物色合わせ】補色と同一とは

補色にするといい、とか、着物や浴衣といった長着の色から取るとか、毎年この手の色合わせのおススメをよく見かけます。

でも「なんで補色がいいのか」「どうして色を統一するといいのか」まできちんと説明している人は少なく、またトーンや面積比についても言及されてないので、この前のBlogと同じように「色み」しか考えられておらず、せっかくなのでもう少し踏み込んだ説明があるといいよね、と思ったのでまとめました。
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今回は、補色が何故良いとされるのか、トーン配色や面積比も考えながら「色って、コーディネートと一緒に考えると面白い!」というのをやってみたいと思います。
なお、使用する配色体系はPCCS(日本色研配色体系)となります。 
日本色研事業株式会社 HomePage

 補色とは?

正式名称は補色色相配色といい、色相環を基準として、色相が反対の色を組み合わせた配色のことをいいます。
条件は色相差12:角度180°、および色相差11:角度165°となります。

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また、彩度が高いほど色の対比が際立つ組み合わせであり、高彩度同士の色は「派手」「目立つ」「鮮やかな」といった印象を想起させます。

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補色の組み合わせは、正反対の色相を対比させてインパクトのある印象を生み出す配色技法となります。(低彩度の補色配色は除く)
その効果により、補色の組み合わせの着物や帯などは、お互いの存在感が際立ち大胆な印象を与えることができます。

しかし、補色色相配色は「色の差」が中心の印象になるため、「素材感」や「質感」といった着物や浴衣、帯の素材自体の印象が薄くなりやすいです。
また、補色の組み合わせは色の対比によって誘目性が高くなり、「派手」「目立つ」といった印象になりやすいです。
※彩度や明度を純色から遠ざけることで、この効果は軽減します

補色色相配色はあくまで技法であり、コーディネートでどのような印象を与えたいのか、どのアイテムを主役にするのか等の目的を達成するための手段の一つです。

「補色だからよい」と理論ありきで、どんな風になりたいのか目的を定めずに使うのは、コーディネートで表現できる印象の幅を狭めるのでおススメできません。

 やってみよう、補色と同一コーデ

それでは、実際に考えながらやってみよう楽しい色彩調和。
この浴衣を例にしてやってみましょう。

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よくある藍染めの綿浴衣です。
この浴衣で、まずは補色コーディネートをしてみます。
(柄は白(無彩色)なので補色はありません。今回は柄については除外します)

 補色&トーン対照

地の色は、低明度の紫みの青、PCCSでいうならばdkトーンの19:pBあたりでしょう。
トーン(色調)というのは、同じ印象やイメージを持つ明度・彩度領域をまとめた概念のことです。

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補色に相当するのは、7:rY(赤みの黄)、および6:yO(黄みのだいだい) or 8:Y(黄)となります。
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ちょうど7:rYに近いbトーンの黄色の半幅帯がありましたので配置してみました。

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補色色相配色の効果により、浴衣と帯がはっきりと見える印象になります。
さらにこの浴衣と帯は、dk-19:pb(暗清色)/b-7r:Y(明清色)という組み合わせですので、明度が対照的なトーン対照にもなり、トーン差を利用した明快な印象をとなります。

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補色色相配色で色の印象が強くなって、トーン対照の効果で溌剌とした、明快な印象もプラスされました。
補色による大胆な色相差×トーン対照による明快な色調差によって、賑やかで楽しそうな雰囲気になりました。
夏祭りや花火大会を連想させる組み合わせかなと思います。

 同一&類似トーン


次は補色の反対、つまり同一色相配色です。
説明はいらない気がしますが「同じ色、同一色相による配色」となります。

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同じような色には、共通的な印象があり、色相を統一するとその印象が強まります。
紫みの青である19:pBの色には、「落ち着いた」とか「大人っぽい」などの印象があります。
dkgトーンの19:pBに近い帯がありましたので、浴衣に配置してみました。

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同一色相配色の効果で、共通的な印象「落ち着いた」「大人っぽい」という雰囲気が強調されました。

dkとdkgはトーン区分では隣り合う位置であり、トーン配色として類似トーン配色となります。
類似トーン配色は、それぞれのトーンに明度・彩度の共通性があるので、そのトーンがもつ共通したイメージをより強調します。

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どちらのトーンも大人っぽいシックな雰囲気があり、その印象が色相と相まってさらに強調されました。

また、同一色相配色や同一トーン、類似トーンのコーディネートの特徴として、「素材感」や「質感」といった下地の要素が見えやすくなるということがあります。
色数及び色調の差をなくす=色の情報量を抑えると、色がある地の素材や質感を把握しやすくなります。

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見た時の情報の入る順番は、色→配色→構成→素材となるため、一番最後の「素材」を感じさせたい場合は、

  • 同一または類似の配色を使う
  • 配色(柄)を少なくする
  • 配色(柄)を均一にする
  • 配色(柄)の面積を減らす


などをすると、より効果的となります。

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同一色相配色および類似色相配色は色数が少ないので、19:pBの印象である大人っぽさ、落ち着きといった色の印象の他に、綿生地の密度や柔らかさ、帯生地の節のある素材感など見えやすく、色数や配色(柄)が少ないことで質感が感じられやすくなります。

(質感、素材感については多色配色や複雑な柄でも見えないわけでなく、この見えやすさ(伝わりやすさと言い換えても可)は、素材に対する知識や見慣れの経験によって幅があります)

 色の面積による効果

ここまでが、「色」「トーン」を利用した配色でした。
さらに配色で重要な要素「面積」も含めて考えてみましょう。

色は、面積が変わると見え方や印象が変化します。

例えば、同じ色でも面積が大きくなるほど明るく鮮やかに見えるようになります。
色彩学では、これを色の面積効果と呼びます。

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他にも、特定の条件の組み合わせによって、色はお互いに同化したり対比したり、彩度が高くなったり低くなったように見えることがあります。
このように、色は配置された面積によっても印象が変化します。

先ほどのトーン対照/補色構成で面積を見てみましょう。

面積の比較としては、こんな感じになっています。

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比率としては、19:pBの面積が80%、7:rYが20%ぐらいです。
この状態に、新しい要素である三部紐を入れてみます。

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最も面積比の大きいdk-19:pBに近い色の三分紐を配置しました。
dk-19:pBの色と近いため、全体的に統一感のある構成になりましたが、dk-19:pBの色が持つ「暗さ」や「色としての重さ」も強調しています。

色の暗さ&重さの印象が、黄色の帯を引き締める効果がありますので、お腹が気になる、帯部分の印象を引き締めたい場合に効果的な組み合わせです。

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次は、柄と同じ白の三分紐を配置しました。
帯の中心に向かって明度が高くなるグラデーションができて、帯留めの位置に注目が集まりそうな組み合わせです。

白のすっきりとした印象もプラスされ、最初のdk-19:pBに近い三分紐の組み合わせより軽い印象を感じます。

明度のが高い組み合わせには膨張感が出ることもありますが、この組み合わせだと明度の低い(収縮感のある)dk-19:pBの面積が大きいので、色による膨張感は少ないと思います。

次は、色の面積効果を最も感じる同一&類似トーンで変化を見てみましょう。

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さきほどの補色&対照トーンでも使用した、同一色かつ類似トーンのdk-19:pBに近い色の三部紐を入れてみました。

全体的に落ち着いた雰囲気ですが、dk-19:pBの色合いが強すぎて重たい印象があります。(浴衣がしっかりした綿生地であり、帯や紐も同じく密度のある生地の為、質感としてもどっしりとした印象を受ける)

同一&類似色でのコーディネートは質感がポイントですので、それにアクセントを加えたい場合は小面積で「色や質感の差」を出すのがおすすめです。

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浴衣や帯と質感が違う、透明感のある硝子の帯留を加えてみました。
質感の差がアクセントになって、一気に帯留が主役のコーディネートになります。
素材、質感の差も、補色色相配色に似た「差が際立つ」効果が出やすい組み合わせです。

同一&類似コーデで統一感や素材感を出したいけど「抜け感」や「アクセント」も欲しい…そんなときにおススメなのが、全体の印象を損なうことなくプラスで印象を与えられる三分紐二分紐、帯留です。

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今度は、補色関係である黄色8:Yに近いpトーンの二分紐を配置してみました。
落ち着いた雰囲気はそのままで、淡く明度の高いp-8:Yによりすっきりとした印象がプラスされ、重たい印象が軽減しました。

補色色相配色を使うときは、面積比にメリハリを持たせると効果的です。
さらに明度差をつけると、その部分の印象を際立たせて主役の雰囲気を出すことができます。

 まとめ

 

  • 補色色相配色を使うと、インパクトがあり大胆な印象になる
  • 同一色相配色を使うと、統一感が出て色の印象が強くなる
  • 補色色相配色は色の差による際立つ印象が中心であり、同一色相配色は色の情報量が少ないために素材感や質感を感じやすい
  • 色相だけではなく、トーン(色調)も意識するとうまくいく
  • 面積にメリハリをつけるとうまくいく
  • 二分紐や三分紐、帯留めは全体の印象を変えずにプラスで印象を追加できる


「理論は正しい」=「好き」ではない

とはいえ、色彩は一人一人の心理的な感覚であり、理論を正しくなぞっても「必ず好きになる正解」はないのです。

今説明した理論は、基本的に西洋で生まれた色彩理論であり、中国や日本の伝統的な配色理論とは違います。
これら色彩調和の理論は、絵を描くうえでのデッサン力みたいなもので「できないからといって描けないわけではない」であり、性的嗜好は理論的ではないものを好むこともたくさんあります。

個人的には「とりあえず補色」とか「色彩調和しないといけない」と考えるより、「この着物と帯の組み合わが好きなんだけど、小物はどういう色がいいかな?」とか「〇〇な雰囲気にしたいんだけど、この浴衣にどんな色を加えたらそれっぽくなるかな?」という風に、少し悩んだり迷ったときに「色の理論で考えてみようかな」ぐらいに考えると、感性から連想される組み合わせ以外の配色が見えて、コーディネートを考えるのが楽しくなります。

今回はわかりやすいように、柄に色味のない浴衣を用いて実践してみましたが、最近の浴衣は鮮やかなトーンに3~6色ぐらいの配色が多いので、実際はもっと複雑かと思います。

補色と同一以外にも様々な色彩調和の方法がありますので、知識で色合わせが楽しくなるといいなと思います。